駒場の思い出〜GWと五月晴れ〜
5月の大型連休を終えると気付くことが2つある。
一つは日差しの強さだ。
大学に向かう道すがら、ふと足元に目を向けると自分の影に目がいく。
春先には弱かった日の光も5月となればだいぶ強くなる。自分を縁取る影の輪郭が、やけにくっきりして見えるのだ。
夏至が6月であることを踏まえればこれは当然なのだが、大型連休を終えて久々に外出すると改めて日が高く登るようになったことを実感させられる。
まさに五月晴という表現がふさわしい。*1
連休明けの日差しは、典型的な理系学生にも厳しい。鞄の中はテキストで埋められ、その重みで肩が痛い。重ねて、直上からは陽光が背中に降り注ぎ、少し汗ばみながらの登校となる。
大学は井の頭線の駒場東大前駅にある。駅から徒歩0分で正門を潜れるという驚異的なアクセスの良さだ。
5月の日差しは強い。
駅から出ると、僕はキャンパス内に植えられたソメイシヨシノの木陰に潜り込んで日差しをやり過ごす。そのまま木陰を伝ってキャンパス内を移動する。駒場歴が長い人間にはわかる、「日差しを受けない最短ルート」を早足で進む。
2限の授業に出席し、講義を受ける。それが済むと教室から一目散に駆け出し、食堂へと向かう。
食堂へ一目散に向かうには理由がある。
お昼休憩に当てられた時間は50分。この間に激混みの食堂でメニューを注文し、学生の群の中から空席を見つけて食事にありつかなくてはならない。大学における最大の激戦地はここである。
毎年、学期初めにおいて、新入生は仲の良い数人がグループを形成しゆっくりと食堂にやってくるのだが、当然ながら複数人が同時に着席できるほどのキャパはこの食堂にはない。
初めは困ったように立っている学生グループだが、そのうち諦めて皆で購買部へと向かい、そこら辺の芝生の上で胡座をかいて食事をすることになる。
ところが、である。
この状況は大型連休を境に大きく様変わりする。
いつも通り、2限の授業を終えて食堂にたどり着いた僕は気付くのである。「食堂があまり混んでいない」ということに。
これが2つ目の気づきである。
大型連休がもたらすものは何も日差しの強さだけではない。学生の心にも「ゆるみ」という影響を与える。
4月の進入学から怒涛の講義ラッシュ。新学期に対する過剰ともいえる期待感と緊張感から解放された学生の一部は、この大型連休という「タイミングの良い」休みを挟むことによって、元の緊張感ある日常に戻って来れなくなる。
大型連休明けの、少し人影がまばらになった食堂を見て毎年なんとも言えない感慨にふけるのが、駒場歴の長い自分のささやかな楽しみであった。
だが、今年はご覧のような影響で当然ながら本学も大学内での講義は当面の間は見送りとなった。
この時期にキャンパス内で繰り広げられていた食堂座席の争奪戦も、青空の下でビニールシートを広げて食事をする下級生の姿も、学生で賑わうあの銀杏並木の新緑も。
今しばらくは見ることができない。
今年の新入生が経験できるはずであった駒場の洗礼も、あの初夏の日差しも。今年は思い出の中でだけ味わうことにしたい。