コロナ対応のこれから②〜モニタリング体制
前回はコロナ対応のこれからについて、近視眼的に取り組まなければならないことに焦点を当てて考えてみた。
今回はこれに続き、コロナ対応の長期的なビジョンについて考えてみたい。
木を見て森を見ずという言葉にあるように、局所的な話題に終始しても全体像を捉えることはできないから、まずは今回のコロナ禍のフレームワークを捉え、そこから細部の話へとつなげていくのがわかり良いかと思う。
全社会的な問題について考えていきたい。スローガン的に言えば、『これから日本社会はどのような戦略をとっていくべきなのか』ということである。
中長期的な問題点
それでは、まずはこのコロナ問題対策として、中長期的にケアしなければならない問題点について考えてみたい(前回記事との対比にあたる部分である)。
全国型感染症モニタリング体制
僕らの今後の動向を決定づけるためにも、最も大事となってくる点の一つ目は、この感染症のモニタリング体制の構築である。
日本は(スウェーデンなど一部の国々とは異なり) この感染症と長期的に向き合っていくという戦略を取らざるを得なかった。
感染症の流行規模は時々刻々と変化していく。それは2020年に入ってからの日本の感染症動向を一ヶ月単位に振り返ってみても明らかである(これも最初の記事参照)。
ある時は小康状態、そしてある時は感染爆発の重大局面、そして緊急事態に相当する局面、というように、様々な状況が波状に訪れることが想定される。
この感染状況に合わせて僕たちは柔軟に経済活動を調整しなければならない。これを怠ると、欧米各国が招いた悲惨な状況を日本も辿ることになるであろう。
これを避けるためにも、流行規模のリアルタイムに近いレベルでのモニタリング体制が必要になってくる。
具体的にどのようなモニタリング内容を敷くべきか。以下、少し細かい話になるが考えてみたい。
これは主に以下のようになるだろう
- 1日ごとの新規感染者数(保健所検査+できれば無作為抽出検査)
- 新規感染者の感染経路
- 感染者の年齢・性別・基礎健康状態
- 人の移動と経済活動の規模
- 感染者の地域別における病床占有割合
- 感染者の健康状態の経過
- 定期的な抗体検査
細かく見るともっと色々モニタリングすべきことはあるだろうが、大きくには上のようになる。特に太文字の項目が重要である。そこだけみてみよう。
1日ごとの新規感染者数(保健所検査+できれば無作為抽出検査)
まず基本的なモニタリング方法として1日ごとの新規感染者数があった。この数字が実際の陽性患者数と大きく離れているであろうことは誰しも感じているところではあるが、ともかく、この絶対値の大小を見ることによって「感染が広がっている/収まってきている」と判断するのだ。
ポイントは「無作為抽出検査」の実施を入れていることだ。実は、第一波における感染者数の観測方法(保健所を通した検査の実施)には少し落とし穴がある。それは、「観測した陽性率が実際の感染者割合より高く出る」可能性があるということである。
感染疑いのある人は自主的に保健所に電話をかけ、そこで感染が強く疑われる人のみが実際のPCR検査に進む。電話連絡した人が全員検査されないのは、PCR検査の医療キットが不足していたからだ、というのはみなさん承知しているところだと思う。
元々、感染の可能性が高い人々を選抜して検査を実施しているのであるから、得られた陽性率が市中感染率よりも高くなるのは理解できるであろう(検査の精度は『かなり高い』ので、そこでの誤差は今回の議論ではあまり気にしなくて良い)。
したがって、市中感染状況のモニタリングという意味でこのPCR検査を使いたい場合には、保健所を介した「患者早期発見方式」とは別に、全国からサンプルとして無作為に国民をピックアップしてPCR検査を行う「無作為抽出方式」が求められる。
これを経済圏別に行うことにより、自分が住んでいる経済圏における市中感染状況はどうなっているのか、何人に1人ぐらいが陽性患者になっているのか。より実態に近い数値が得られるであろう。
ちなみに、この検査だが、全員にPCR検査を行う必要はない。求めたい精度にもよるが、考えている経済圏の人口規模によらず、300人ほど調査すれば良い。これは統計学の知識が必要なので「なんで?」と腑に落ちない人はぜひ統計学を学んでほしい。ここでは数学の説明はしない。
ともかく、今後は患者を早期にケアするための「保健所仲介検査」「ドライブスルー検査」に加えて、PCR検査数が十分量確保されたのち速やかに「無作為抽出検査」を実施する体制を整えるべきである。
新規感染者の感染経路
これは、日本がクラスター対策を早期に導入して感染拡大を抑止したという第一波の経験からも理解されることだと思う。所謂「三密」が今回のコロナ感染症のキーファクターとなっていることからも、特殊なイベントが感染拡大に寄与している可能性が高い。感染した原因となるであろうこのイベントの有無を各感染者に対して調査することは今後も必要となってくるであろう。
加えて、判明した感染経路とそのイベントについて関係者に早期に伝えられるようなシステムを全国規模で導入する必要がある。昨今のITの進歩から考えると、スマホにトレーサビリティの高いアプリケーションを導入するのが良いだろう。ただ、これにはプライバシーの権利に関わってくることなので、その個人情報の取り扱いには議論の余地がある。個人情報関連については(余裕があれば)別記事で考えてみたい。
人の移動と経済活動の規模
感染症の流行規模と同時にモニタリングすべきこととして、人々の活動規模もあげられる。感染の拡大は経済活動の大きさに比例する。再び感染爆発の兆しが見えたとき、果たして二週間前時点での人の移動量はどうなっていただろうか。こうした活動量を数値としてモニタリングすることで今後の感染者の拡大が推定することが可能となる。
また、これらのビッグデータは今後似たような感染症が発生した時に用いられることが期待される。大変貴重な情報となることは間違いない。このような点からも経済活動と感染の規模は両方ともモニタリングすることが望まれる。
これもまた、位置情報サービスを利用した手法により、かつてないほど正確で豊富なデータが取れるようになっていることも一言添えさせておこう。
感染者の地域別における病床占有割合
前回記事で、病院などの病床数確保が早期にケアすべき重要課題として挙げたが、それを十分な量確保するまでにはまだしばらく時間がかかるであろう。そうすると、数少ない病床数を以下に正確に把握し、患者を振り分けるかという問題は重要である。各地域の保健所とモニタリング状況をリンクさせることで、よりスムーズな医療の提供につなげられる。
また、同時にECMOなどの貴重な医療資源の占有率のモニタリングも大事になってくるであろう。
定期的な抗体検査
PCR検査と似ているかもしれないが、全国的に感染症の流行がどれくらい進んでいるのか。その履歴をチェックするための方法として、大規模な抗体検査(過去にウイルスにかかっていたかどうかがわかる)を定期的に行うことが必要である。
一度、病気に罹った人は二度目以降は罹らない、という言葉に集約されるように、人間には抗体を作るという免疫システムが備わっている。この免疫を獲得した人の全国割合が、ある水準にまで達すれば感染症の流行は終息に向かう。つまり、コロナウイルスとの共存体制が完了する。
『終戦』というゴールに対して僕たちは果たして今どこにいるのか。それを知るためのディスコースマーカーとなるのがこの抗体検査である。
具体的な期間については何ともいえないが、コロナが小康状態で人々の真理に比較的余裕のある時期にこの検査を実施するのが良いであろう。こちらもPCR検査と同様に、全国および経済圏ベースでの無作為抽出検査が行われることが望ましい。
そうなると、この第一派が収まっている時期に、まず第一回目の抗体検査が行われるのではないかと思われる。
モニタリング体制について述べたかったまとめは以上である。
以下5/28追記
経済活動と感染症対策のバランス
今回の感染症との長期戦に向けて、僕たちがモニタリング体制と並行して考えていかねばならないもう一つの問題は、経済活動の管理体制である。
ここでいう経済活動というのは企業レベルでの活動だけでなく、僕たち一人一人の個人消費行動も含めた「人間の移動全般」を想定している。
感染拡大をコントロールしながらも、その一方で、経済が破綻しない程度に人々の行動制限を緩和していくという「理想のバランス」を実現したい。そのために必要となるであろう論点について考えてみたい。
経済活動指針の策定
この記事を書いている今現在(※5/28)、日本では感染症の第一波がほぼ収束し、緊急事態宣言も解除されたところである。
二ヶ月ほどの急激な経済停止により、中小企業を中心に多くの人々が経済打撃を受けた。日本政府もこのことを深刻に受け止めたのであろう。完全収束を待たずして経済活動の再開を促した格好にも見受けられる。
ただ、多くの人が経済を早く回したいと考えてはいても、この段階で緊急事態宣言を解除するのは早すぎるのではないか、そのように考えている人も多くいる状況だ。
経済活動を行いながらも効果的に感染症対策を行いたい、それを達成するためにもより具体的な経済活動指針を早期に策定しなければならないと僕は考えている。
三密が強く懸念される業種以外については、特に規制を設けることなく経済活動を再開させてしまったのが現状である。テレワークや時差出勤が推奨され、実際に継続してくれている企業があるものの、都心に向かう朝の電車はすでに高い乗車率を占めるようになってしまっている(互いに喋らないので別に満員電車に問題があると主張するつもりはない)。
ただ、このように活動量が増えていること自体にリスクが潜む。接客業や商談など、人と直接会って会話をすることが避けれない職種については確実に感染拡大のリスクを高める。また、若者を中心に直接会って会話する、数人で飲み会をするなどの節操ない行動が増え始めると、感染経路をモニタリングすること自体が難しくなってしまう。
日本は残念ながら法律によって経済活動を制限するというようなことはできない。しかし、それを理由にして、全ての活動を一緒くたにして『今はダメ、今はダイジョウブ』と雑に指揮するだけでは感染症の精緻なコントロールはできない。それでは経済と感染症の管理を両立できない。今のままでは遅かれ早かれ経済の方が先に機能不全に陥るであろう。
不公平に感じられるかもしれないが、三密の程度に応じて経済活動はグラデーションを持った規制がかけられるべきであると思う。つまり、同じ時期であっても、活動が許される職種とそうでない職種が出てくるということだ。もちろんのことながら、実際に都庁は経済活動再開のロードマップと銘打って、短中期的な活動指針を示している。*1
それぞれの施設、企業にまで細かく分類して活動指針を示してくれていて、とても素晴らしいと感じる。ただ、その一方で個人の行動指針については定められておらず、こちらについてはまだ「新しい生活様式」を定めているだけである。でもやはり、先んじてこのようなプランを考えていた点は大変評価できる。
しかし、これは一つの経済圏だけで行うだけでなく、国全体で統一した基準を設けることが必要である。1箇所だけ行っていても意味は二というのもあるし、仮に複数基準で別々に行ってしまうと、データの収集と分析において十分なサンプルが集まらない上、人間心理的には不公平と感じてしまうところもある。
都だけでなく各自治体が足並みを揃えて活動できるよう、国が十分にリーダーシップを発揮しなければならないと思う。
活動指針の修正・改善
初めはデータに基づかなくてもいいので、ある一定の基準をしいた活動指針を提示し、それに沿った制限を開始すべきである。それにより、上述したモニタリング体制と合わせて感染状況を具に観察する。データを蓄積し、分析する。そして、どの規制が効果をあげ、どれがうまくいったか/失敗していたか、という点を見える化する必要がある。
そして、大事なのは、そこから活動指針を改善させていくことである。季節的な要因や
文化的な要因、あるいは国外の情勢の変化によっても活動指針は柔軟に変更することが要請される可能性が高い。一度指針を作ったから大丈夫とするのでなく、モニタリング側のデータが増えるに合わせて勇気を持って手を加えていってもらいたい。
データをいかに分析するか。それをもとにリスクとどのようにバランスをとって経済活動指針を改善していくか。経済と感染症それぞれで100点満点で完璧な両立を達成することはできない。両者の一番譲れない点を洗い出し、正しく優先順位を付けて対策を講じていく。言うは易し、行うは難しであるが、日本には優秀なエコノミストと感染症対策班、そして世界最高レベルの医療体制が揃っている。この三分野の融合体制が政府内で組織され、緻密な戦略が寝られていることを期待している。
活動指針の告知・理解浸透
先にも述べたが、皮肉なことにこれらの経済活動指針はあくまでも『お願いベース』である。
国民の理解と納得がなければ正常に運営されることはない。
したがって、国は各種メディア・SNS・を通じて経済活動指針の十分な告知を行う必要がある。致し方のない不公平な規制が実施される場合、当該企業および個人に対しては十分な説明と手当てが行われることが不可欠である。コロナ対応の振り返り②でも述べたが、第一波の際は感染拡大を鈍化させていたのにも関わらず、政府が(五輪開催などにこだわったような態度で)経済対策の着手に手間取っていたため、結果として必要な給付金支給が大幅に遅れて経済困窮に陥る人々が増えた。
この先、経済規制は突発的なものであってはならず、十分に考え抜かれた上での対策でなくてはいけない。したがって、当然ながらそれに伴って生じるであろう国民の不満と不公平感に内実ともにしっかりと応えられるようなケア戦略も考えておかねばならない。
それらを計算に入れ込んで経済活動の告知と国民への啓蒙活動を行っていくことが求められている。
各項目について述べていたら長くなってしまったのでここで一回やめて、以下に追記していく形でコロナ対応のこれからとして、あと「ワクチン開発」「その他の細かな問題点」について述べてみたい。